ロボコン完結編。本番でロボット暴走

こんにちは、トクイテンの森です。
今回もロボコンのお話。完結編(?)のつもりです。

リレーとモーター

電気回路に使うリレーという装置を存じの方はどれくらいおられるでしょうか?日本語では「電磁継電器」といいます。この装置は電気回路を繋いたまり切ったりするスイッチなのですが、そのスイッチを電磁石で動かすもので、その電磁石はまた別の回路で動いています。この装置の利点は小さな電流で大きな電流の流れる回路を制御可能で、その性能(流せる電流)に比較して安価という点もあり、現在でも様々な場所で使われています。
そういえば、ENIACのような初期の電気式の計算機はリレーを使っていました。ここでは、電流の増幅という機能よりスイッチでスイッチを制御できる、つまりOFFのときON、ONのときOFF、というNOT回路や2つのスイッチを使って1つのAND回路、OR回路を作ることができる特性から使われました。ただ、電磁石のような小型化が難しい仕組みであったため、その後トランジスタにその地位を奪われることになります。ちなみにプログラムの不備を表す「バグ(虫)」という言葉は、何故かうまくプログラムが動かないことに直面したときに当時のリレー式の計算機を点検したところリレーの中のスイッチに蛾が挟まれて死んでいたことが原因だったことが由来だとか。本当でしょうか。
閑話休題。ロボコン当時お金のなかった我々は大きな電流が必要なモーターを小さな電流で動作するマイコンで制御するために、リレーを大量に使いました。今なら、大きな電流を流せるトランジスタの一種であるMOS-FETを使うところですが、過去の部品を取り外して使えることからお金のない我々には仕方のないことでした。
地方大会での重量測定。規定重量以下かどうかを検査されている。
地方大会での重量測定。規定重量以下かどうかを検査されている。
絶滅の危機にある動物などをオブジェクトにして「SAVE」のメッセージと共に回転させた。持続可能性を意識している?(してない)
絶滅の危機にある動物などをオブジェクトにして「SAVE」のメッセージと共に回転させた。持続可能性を意識している?(してない)

本番でのロボット暴走

ロボコン2000はメッセージ性のあるオブジェクトを高いポールの上の台に置いて、一定時間パフォーマンスをするとその時点でそのチームの勝利が決まるルールでした。並列に競争するだけなので駆け引きなどはなく、ひたすら速い方が強いという身も蓋もない競技です。
我々のロボットは、前回お話したポールを登るロボット「子機」4台とその子機をポールまで移動させる「親機」、競技場の段差を親機に乗り越えさせるための「母艦」の3つのタイプのロボットで構成されていました。子機は自動制御ですが母艦と親機は操縦者の森が手動で操作していました。
そもそも我々のロボットの動きは遅かったのですが、そこに拍車を掛けたトラブルが全国大会の本番で起こっていました。試合開始から動き始めて数秒すると親機が暴走して、操縦を受け付けず勝手な動きをし始めました。それまでは問題なく、この不具合は全国大会でだけで起こった現象で、一回戦が開始してから気がつきました。焦りましたが、一瞬で試行錯誤してマイコンのリセットボタンを押すと一時的に治ることに気づいて、数秒動かしてはリセットを繰り返していました。リセットボタンを作っておいてくれた、同級生のNさんに感謝です。
実は本番直前の暗い通路でのテスト動作で、透明なケースに覆われたリレーからきれいな火花が出ていることに気がついていました。モーターへ大電流を流すため、スイッチの電極が接触するかしないかの瞬間に一気に電流が流れて火花を放っていたのだと思います。これは多分これまでも出ていたのに明るい場所での作業で気がついていなかったのでしょう。また、会場である両国国技館はテレビのための照明で舞台の上ではかなり暑かったのも原因かもしれません。火花による電磁ノイズや想定以上の熱がマイコン内部のビット反転をさせて暴走の原因となったことが考えられます。少なくとも過酷な環境であることは確かだったと思います。
幸いなことに子機の回路には問題なかったため、自分の仕事は暴れ馬の親機をなんとか操縦して、子機をポールにセットすることでした。元々、遅かったのもありますが、こうなっては速度を気にしている場合ではなく、確実に動作させることに集中していました。
確実性に振り切ったことが良かったのか、対戦相手が次々に自滅して、決勝戦に進んだのは望外でした。決勝まで行けるとは思っていませんでしたが、決勝までのバッテリーを用意しておいたのは良い判断でした。準備は大切です。決勝戦はあっさりと負けてしまったのですが、想像もしなかった結果に自分たちでも驚いたものです。

ロボコンの教育的価値

電子回路をかじっていればノイズ対策は意外と大変だということが分かると思いますが、その当たり前の事実を知った学習機会だったと思います。ロボコン経験のある学生の研究進捗は目覚ましいものがあるとこれまでの学生指導で経験していますが、座学だけでは実感できない技術の勘所がわかるのでしょう。その意味でも各種のロボコンが提供する教育的役割は大きいものだと感じます。