トクイテンメルマガ 第2号

トクイテンの共同創業者の森裕紀(もりひろき)と申します。トクイテンメルマガの第2号をお届けします。
今回はメルマガ創刊号の豊吉のエピソードに続けて、森がトクイテン共同設立に至った経緯や思いをご紹介したいと思います。
 
森と豊吉は岐阜高専電気工学科(現在は改組して電気情報工学科)で同級生でした。高専は5年制なのですが、3年生と4年生にあたる1999年と2000年にクラスでメンバーを募ってNHK高専ロボコンに出場しました。1999年は地区大会ベスト4でしたが惜しくも規定(同じ高専からは1チームのみ全国大会に出場できる)により全国大会へは出場できませんでした。2000年にもクラスで出場し、地区大会では一回戦敗退でしたが、技術が認められて全国大会に出場し、全国大会では準優勝となりました。これが私たちのロボットの原体験になっています。
ロボコン2000東海北陸大会での記念写真。上の赤丸が豊吉。下の赤丸が森。中央がポールを登って造形物を載せるロボット。チーム名はCrazy Climberで当時ロボットを作りながら遊んでいたゲームから取った。
ロボコン2000東海北陸大会での記念写真。上の赤丸が豊吉。下の赤丸が森。中央がポールを登って造形物を載せるロボット。チーム名はCrazy Climberで当時ロボットを作りながら遊んでいたゲームから取った。
サッカー部にも在籍して試合にも出ていたのですが、スポーツをやっているとこの複雑な身体を上手く動かすにはどうしたら良いのか、人間の脳・神経系の仕組みはどうなっているのかという興味が出てきます。同時に人工知能に興味をもって情報を追っているとチェスの世界チャンピオンがコンピュータに負けたというニュース(1997年)も目にします。その同じ年、1997年には名古屋で自律ロボットによるサッカーの第一回世界大会が名古屋で開催されることを知って、観戦に行ったのも良い思い出です。
そのような背景もあって、チェスのようなゲームに閉じた知能は早晩全て人間は負けるだろうから、世界に開いた知能を理解して作りたいと自然に思うようになったのでした。
高専の卒業論文では近年の人工知能として流行ることになるニューラルネットワーク(脳の仕組みを模した学習型計算システム)を自作ゲームのプレイヤー制御に使おうという研究を行い、編入した豊橋技術科学大学では運動制御のための計算論的神経科学を研究することができました。その後、東京大学の博士課程に進学して赤ちゃんの発達を参考にしたロボット工学やロボット的な観点でみた人間の発達理解についての研究を行いました。最終的に胎内環境での胎児全身のコンピュータシミュレーションを行い博士号を取得しました。
卒論で取り組んだニューラルネットワークによるAIBOの制御
卒論で取り組んだニューラルネットワークによるAIBOの制御
胎児の全身筋骨格シミュレーション
胎児の全身筋骨格シミュレーション
博士号を取得した後、大阪大学で5年間の任期で助教として赴任しました。ここでも、赤ちゃんやロボットの研究を引き続き行いましたが、三次元空間と時間を合わせた4次元パターン認識や因果関係を見つけるための機械学習の研究などを行いました。2016年3月に任期を終えた後、フランスで一年研究を行い日本に帰ってきました。
豊吉とは、それまでも年に一回以上会ったりネットを通じて交流があり、常々ロボットで何かしたいとは話し合っていました。ちょうど帰国したあたりで豊吉が前に立ち上げた事業を売却していたのもあり、現実味のある議論をするようになりました。最初は人工知能の技術を生かした事業をやろうかということで、共同で 人工知能メディアmarvin.newsを立ち上げるなどしましたが、事業として発展するまでにはいたりませんでした。
豊吉が農業に興味を持ったことには意外な気持ちもありましたが、実際に農業を体験したり、議論してみると農業全体を自動化することは現在の人工知能やロボットでできるかできないかのギリギリのチャレンジだということがわかってきました。ロボットは様々なことが実現可能という印象を持っている方もおられるかもしれません。しかし、ごく狭い範囲の知的に「見える」動作は可能ですし、その範囲や高度さは年々進歩しているものの、農業に必要な作業を全体として実現するほどの人工知能技術はまだまだ不十分というのが専門家としての感覚です。
帰国から現在まで、早稲田大学の次世代ロボット研究機構に所属してロボット研究も継続して行っています。テーマの一つは、ロボットに衣服をたたませたり紐を結ばせたりといったその場その場の状況に適応できるロボット知能の開発です。このような柔軟物を扱うような人工知能は柔らかい植物を扱うような作業に向いています。
ロボットの適応性の限界を見極めた上で、環境側もできるだけ整備していくことで全体最適な農業を目指していきたい。研究と実践の相乗効果を期待して、取り組んでいこうと思っています。