トクイテンメルマガ 第6号

トクイテンの共同創業者の森です。トクイテンメルマガの第6号をお届けします。
 
今回は「トクイテン」がどのような技術的課題に取り組もうとしているのかについて、やや抽象的ですがお付き合いください。
 
障碍学の分野で「合理的配慮」という言葉があります。例えば、「脚が健常な方にとっては階段はハードルにはならないが、不自由な方にとってはハードルになるため階段の代わりにスロープを作りましょう」といった判断を合理的配慮といいます。ちなみに、脚の動きが基準より悪いから階段がハードル(障碍)になってしまうという考え方は障碍の「個人モデル(医学モデル)」、階段の障壁が高いためにハードル(障碍)を高く感じる方もいるという考え方は障碍の「社会モデル」といわれています。
元々英語ではReasonable accommodationですが、このaccommodationは(論争・紛争などの)調整や和解という意味ですので、「合理的調整」と訳した方が良いかもしれません。「配慮」という言葉であると、障碍のない方がある方にに譲歩して一方的に助けるという雰囲気を感じますが、本来はそういった意味ではなく、それぞれが少しずつ歩み寄って誰にとっても生活しやすい環境を整えるという意味合いがある言葉です。
さて、ロボットにとってのハードルは何でしょうか?意外に思われるかもしれませんが、人工知能やコンピュータにとって得意なのは、(一定の難しさまでの)数学の証明問題を解いたり、一級建築士が計算するような構造物の強度を計算したりといった専門性のある情報処理です。人間であれば3歳児できるようなブロックを組み合わせるような作業は、現在のロボットには難しく、最近になってようやく安価にできるようになってきましたが、今でも不可能な課題は多くあります。つまり、人間の大人にとっも高度な仕事が得意で、逆に人間の子供にも容易にできる操作が難しいというのです。これは、モラベックのパラドックスと呼ばれています。ハンス・モラベックは1990年に出版された著書"Mind Children"(日本語訳「電脳生物たち-超AIによる文明の乗っ取り」)の中で、当時のロボット工学や神経科学の知見を基に人工知能にとって難しい能力は何かを議論しています。モラベックは技術に対して非常に楽観的で20世紀中に人間の子供が行う能力はロボットで実現されて、広く普及するだろうと述べています。
しかし、それは実現できませんでした。人間にとってもロボットにとっても、自然な実世界で活動する時には以前とは少しづつ異なる常に新しい状況に遭遇し、それに対処なければならないのですが、特に旧来の人工知能にとってはとても難しいものでした。近年、研究が進み実用化され始めた深層学習はこのギャップを埋める基本技術になっていますが、まだまだロボットには「障碍」が多いと考えられます。
例えば、上の写真は我々が取り組んだ愛知県の南知多町で試みた有機栽培の様子です。元々、農場のオーナー様に事情があり、捨てようと考えていたミニトマトを我々に育てさせていただきました。
では、左のような雑多に並んだ作物を右のように並べるようなロボットは開発できるでしょうか?少なくとも現在の私には自信がありません。どのツルがどの根につながっているのか全て認識して、傷つけないように運ばなければなりません。その際には視覚だけに頼ることなく、動かしながら確認しながら、慎重に移動する必要があるかもしれません。
近年盛んに進歩の著しい「植物工場」といった形態の栽培方法は密閉された工場の中で太陽光に似せたLED等を使って光合成を行い、収穫も自動化されています。10年ほど前はノウハウが未確立でしたが、最近では採算の合う作物が出てきました。しかし、その殆どは葉物野菜となっています。これは、果実や根菜類といった作物を栽培する場合には環境側の制御だけでは十分でなく、育った植物の多様性(果実や茎、葉の形状など)にも対応するようにシステムを作る必要があるのにまだまだ技術が追いついていないという現状が理由だと考えられます。
農業は現在の技術水準のロボットにとっても「障碍」が大きいのです。我々は今後、ロボットの能力について「社会モデル」(ロボットならば「環境モデル」と言い換えても良いかもしれません)の観点から考えて、(ロボットの技術を伸ばすことも重要なのは言うまでもないですが)ロボット技術と農業環境を合理的に調整することで、最も効果的な農業を実現していきたいと考えています。